
NASAのアルテミスII月周回ミッションにおいて、市販のデジタル一眼カメラNikon Z9で撮影された一枚の画像が、太陽系に存在する「光学Fコロナ」に関する新たな科学的発見を導いたことが明らかになりました。この画期的な成果は、東京都市大学および東北大学の津村耕司氏、国立天文台の有松亘氏らによる共同研究として、2026年6月9日付で科学誌「The Astrophysical Journal Letters」に論文として発表されています。
この発見は、単なる宇宙ミッションの記録に留まらず、高価な専門観測機器ではなく、広く一般に市販されているカメラが宇宙空間でいかに重要な科学データをもたらし得るかを示す「概念実証」として注目されています。アルテミスIIミッション中に月の影で発生した皆既日食の様子を捉えたこの画像は、これまで知られていなかったFコロナの詳細な構造を明らかにする鍵となりました。
特に、月面から約6,545 kmの高度で撮影されたJPEG画像が、精密なデータ解析を経て最先端の天文学研究に貢献したことは、今後の宇宙探査における高性能デジタルカメラの役割を再定義する可能性を秘めていると言えるでしょう。
この記事のポイント
- NASAアルテミスIIミッションでNikon Z9が撮影した画像が、光学Fコロナの科学的発見に貢献しました。
- 市販のデジタルカメラで撮影されたJPEG画像が、高度な天文学研究に活用できることが実証されました。
- Fコロナが扁平な形状を持ち、輝度分布に非対称性があるなど、その詳細な構造が新たに解明されました。
- 日本の研究者がこの科学論文の主著者として名を連ねています。
- 一般向け高性能カメラが将来の宇宙探査において、科学研究の新たなツールとなる可能性を示しました。
アルテミスIIミッションにおけるNikon Z9の活躍
2026年4月6日から7日にかけて実施されたNASAのアルテミスII月周回ミッション中に、Nikon Z9が「Artemis II in Eclipse」(NASA ID art002e009301)と名付けられた画像を撮影しました。この画像は、月面からおよそ6,545 kmの高度から捉えられた皆既日食の瞬間を記録したものです。

撮影には、Nikon Z9本体にNikkor AF-D 35mm f/2レンズ(マウントアダプター使用)が装着され、以下の設定で撮影されました。
- カメラ: Nikon Z9
- レンズ: Nikkor AF-D 35mm f/2 (adapted)
- 絞り: f/2
- シャッタースピード: 2秒
- ISO感度: 1600
- 画像形式: RGB JPEG, 8256 × 5504ピクセル, 8-bit/チャンネル
宇宙船が月に近接していたため、月の見かけの直径が太陽よりはるかに大きく(月約16.9°、太陽約0.53°)、これにより地球上では得られない約1時間という長時間にわたる皆既状態が実現しました。この特別な条件下で、広い視野(約51° × 33°)にわたって、惑星間塵に散乱された太陽光である「Fコロナ」の輝きや、多数の恒星、さらには土星や火星までが捉えられました。
市販のJPEG画像が科学的価値を持つまで
この画像は、フル測光校正が施されていないJPEG形式であったため、当初は科学的分析への適用に懐疑的な見方もありました。しかし、研究者たちはガンマ補正を慎重に考慮し、フィールドスターを用いて、カメラが飽和していない領域で線形応答を示すことを検証しました。
具体的な解析手順としては、Astrometry.netを用いた天体位置の登録、月の暗い面を利用したゼロポイント減算、月と明るい星のマスキング、そしてRGBチャンネル間の相対強度分析が行われました。これらの精密な処理により、市販のカメラで撮影されたJPEG画像からでも、専門的な天文学観測データに匹敵する質の高い情報が抽出可能であることが証明されました。
Nikon Z9の画像から明らかになったFコロナの新事実
一枚のNikon Z9の画像から、研究者たちはFコロナの構造に関する以下の5つの重要な新事実を発見しました。
1. Fコロナは扁平な形状をしている
暗い月の周囲に見える微かな光の輪(Fコロナ、内側の黄道光)は、完全な円形ではなく、太陽系の惑星が公転する平面(黄道面)に沿って押しつぶされたように扁平な形状をしていることが判明しました。
2. 輝度分布に非対称性がある
- 輝きの北側が南側よりもわずかに明るいことが確認されました。
- また、西側が東側よりも若干明るいことも示されました。
このわずかな非対称性は、太陽を取り巻く巨大な塵の雲を地球から観測する際の視点から予測されるものと一致すると報じられています。
3. 太陽からの距離に対する輝度減衰率
太陽から遠ざかるにつれてFコロナの輝きが急激に減衰することが分かりました。この減衰は、以前の宇宙観測が示唆していたよりも急速であり、塵粒子の数が太陽からの距離に対して約α ≈ 1.3の割合で減少していることを示唆しています。
4. 観測された輝きはほぼ惑星間塵による散乱光
この画像で測定された距離では、皆既日食で通常見られる明るいストリーマーやプラズマ(Kコロナ)はほとんど存在しませんでした。これは、観測された光がほぼ完全に、微細な惑星間塵粒子によって散乱された太陽光であることを意味します。
5. 一般向けカメラによる科学的発見の可能性
特別に校正された科学機器ではなく、市販のNikon Z9で撮影された通常のJPEG画像であっても、慎重な星による校正と解析を行えば、一流の天文学ジャーナルに掲載されるほどの質の高いデータを提供できることが証明されました。これは、宇宙飛行士が月を通過する際に一般向け高性能カメラを使用することで、太陽系を満たす塵の雲に関する有用なデータを収集できることの最初の「概念実証」であり、将来の月周回ミッションで日常的に可能になる可能性を示しています。
関係者のコメント
今回の発見について、各関係者からコメントが寄せられています。
津村耕司氏(主著者、東京都市大学/東北大学):
「宇宙飛行士が市販のNikon Z9をわずか2秒の露出時間で操作してこの驚くべき画像を捉えたと知り、デジタルカメラ技術がいかに進化したかを示す真の証拠だと感銘を受けました。JPEG画像の分析には当初懐疑的でしたが、その品質はプロの天文学観測で使用されるデータに匹敵することが判明しました。天文学はアマチュアとプロが共に有意義な貢献ができる点でユニークであり、高性能カメラがより身近になるにつれて、アマチュア写真家が撮影した画像が予期せぬ科学的発見につながることはますます増えると信じています。」
有松亘氏(共同著者、国立天文台):
「今回の発見は、適切に校正・分析されれば、市販のカメラ画像から科学的に価値のあるデータを抽出できることを示しています。これは、将来の宇宙探査において高性能な市販カメラが、記録用途だけでなく、予期せぬ科学的発見のためのツールとしても機能し得ることを示唆しています。」
池上裕一氏(ニコン シニアエグゼクティブバイスプレジデント兼イメージング事業部長):
「アルテミスIIミッションの画像が地球に戻ってくるのを目にするのは、私たちニコンの全員にとって深い名誉です。東京都市大学によるこの最新の研究は、科学、探査、揺るぎない努力、そして人類の好奇心が結びつくとき、イメージングが何を可能にするかということを力強く示唆しています。アポロ15号からアルテミス計画に至るまで50年以上にわたり、ニコンは最も過酷な環境下でも卓越した明瞭さと信頼性を持つカメラとレンズでNASAをサポートできることを光栄に思ってきました。Nikon Z9の高い解像度、広大なダイナミックレンジ、優れた低照度性能は、乗組員が驚くべき詳細を捉えるのに役立っています。」
編集部コメント
今回のNikon Z9による科学的発見は、市販のデジタルカメラが宇宙空間において単なる記録ツールを超え、最先端の科学研究に貢献し得ることを明確に示した画期的な事例と言えるでしょう。特に、JPEG形式の画像という点から、その解析手法の精密さと、そこに秘められたポテンシャルが浮き彫りになりました。日本の研究者がこの重要な発見の論文を主導したことも、私たち日本のカメラ・映像業界にとって非常に誇らしいニュースです。
これまで宇宙探査においては、特殊な環境に対応するために開発された専用機器が用いられることが一般的でした。しかし、Nikon Z9のような高性能な市販機材が、深宇宙での未知の現象解明に寄与する可能性が示されたことで、今後の宇宙開発におけるカメラ選定やデータ収集のアプローチに新たな視点をもたらすかもしれません。これは、プロの宇宙飛行士だけでなく、写真愛好家や一般ユーザーにとっても、高性能カメラが単なる趣味の道具にとどまらない、より広範な可能性を秘めていることを示唆しており、今後の技術革新と新たな発見への期待が高まります。
本記事は海外メディアで公開された情報を参考に、日本向けに内容を整理・要約しています。
画像:NASA Johnson
参照:https://www.flickr.com/people/nasa2explore/
※掲載画像はNASA Johnsonより引用しています。















